2004年度 全国アンケート結果の公開

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スライド1

スライド1

恒例となった冠動脈外科手術に関するアンケート調査である。今回の調査対象は2004年1月1日縲鰀12月31日までの1年間に行われた冠動脈外科手術の調査である。

今回のアンケートでは昨年1例以上冠動脈バイパス術を行った全国の施設の内274施設から回答をお寄せ頂いた。かなり細かな内容にも関わらず多くの施設、先生方にご協力を頂き、この場にて厚く御礼申し上げる。

近年,我が国の冠動脈バイパス術はOff pump bypassが急増しているが、今回はどのような症例がどのような術式で行われているのか、具体的な症例も含めて調査を行った。

スライド2

スライド2

回答をいただいたアンケートを集計した結果、分析の対象となった冠動脈バイパス術は13,633例、単独冠動脈バイパス術は11,939例である。

そのうち初回待期的冠動脈バイパス術は10,116例で、うちoff pumpが6,276例、on pumpが3,840例であった。

スライド3

スライド3

しばらくの間、初回待機手術における報告を行う。

スライドは96年以降のoff-pumpとon-pumpの割合を示したものである。

向かって左のピンクがoff-pumpで右の水色がon-pumpである。

前回初めて50%を越えたOff pump CABGはさらに増加し、単独冠動脈バイパス術では初回待期的手術の62%がOff pumpで行われた。

スライド4

スライド4

体外循環との関係で,上から

on pumpで、心停止が33.5%

on pump心拍動下が4.4%

一番下がoff pumpで62.0%である。

しかし最後までoff pumpで行えなかった症例もありOff pumpのうち3.8%は途中でon pumpに移行している。

スライド5

スライド5

手術成績を手術死亡率から評価した。

手術死亡率は

on pumpで、心停止が0.97%

on pump、心拍動下が2.46%

off pumpが0.97%であるが、最後までoff pumpで行えた症例では0.88%と優秀なのに対して、off pumpからon pumpに移行した症例の死亡率は3.38%と不良であった。

スライド6

スライド6

2004年に行われた初回待期手術は10,116例で手術死亡率は1.04%であった。

横軸は何枝病変かを示し、縦軸に死亡率を示している。左端からLMT病変を持たない1枝病変、順に2枝、3枝と続き、一番右端がLMT+3枝病変である。LMT病変を合併しない3枝病変が全体の40.3%で最多であり、LMT病変なしの症例は全体の72.9%を占めた。この傾向に変化はない。

スライド7

スライド7

初回待機手術のうち心停止下に行った手術の成績を示す。

手術死亡率は全体で0.97%である。

1枝病変の手術死亡率が2.02%と高い。

またLMT病変のみあるいはLMT+1枝が死亡0なのに対して、LMT+3枝は死亡率1.84%である。

スライド8

スライド8

On pump, beatingの症例は448例と少ない。

手術死亡率は全体で2.46%である。

1枝病変以外死亡率は高い。

スライド9

スライド9

Off pumpで最後までやり遂げた症例の成績である。

症例数は6,039例で、手術死亡率は全体で0.88%である。

1枝病変の手術死亡率は0.17%と最も優れている。

スライド10

スライド10

これに対して

Off pumpからon pumpに移行した症例はoff pump全体の3.8%で237例であった。

症例数が少ないので1例の死亡で、数値は大きく上昇するが、手術死亡率は全体で3.38%と不良である。

スライド11

スライド11

スライドの緑は1枝、青は2枝、黄色は3枝、赤は4枝以上のバイパス手術を示す。

4枝以上を4枝として計算した平均バイパス本数は2.81で、前回の2.72を上回った。

体外循環との関係で、上から

心停止が3.10本

on pump、beating

off pumpからon pumpへの移行症例

一番下がoff pumpで2.64本ある。

スライド12

スライド12

初回待機手術におけるバイパス本数に対するoff-pump、on-pumpの割合を示す。

一番上が1枝バイパスでoff pumpが81,5%を占め、心停止下の手術は12.4%であった。

下に行くに従って、2枝、3枝、4枝以上であり、4枝以上ではoff pumpが49.7%、心停止下は43.8%であった。

スライド13

スライド13

初回待機手術における障害枝数に対するoff pump,on pumpの割合を示す。

一番上が1枝病変でoff pumpが81.5%を占め、心停止下の手術は13.6%であった。

下に行くに従って、2枝、3枝、同様にLMT症例である。

LMTの有無に関わらず、1枝,2枝,3枝の順にoff pumpの割合は減少する。

スライド14

スライド14

障害枝数に対する成績をoff-pumpで手術を開始した症例、すなわち途中でon pumpに移行した症例を含めた症例と心停止下手術の成績を比較したものである。

よって、on pump、beatingの症例は含まれていない。

Off-pumpが赤、心停止が青である。

Taotalでは死亡率0.97%で両者に差はないが、病変により成績はまちまちである。

スライド15

スライド15

これは先程のOff pumpからon pumpに移行した症例の成績であるが、手術死亡率は全体で3.38%と不良である。

ここで、どのような症例がoff pumpで成し遂げられないのかを検討してみたい。

スライド16

スライド16

Off pumpで手術を始めた症例の障害枝数別のon pumpへの移行の割合を示す。

一番上が1枝病変一番下がLMT+3枝病変である。

3枝、 LMT+2枝、LMT+3枝での移行率が4%を越える。

スライド17

スライド17

冠動脈のどこにバイパスを置いたか、あるいは置かなかったかにより6通りに分けた。

上からRCA、LAD、CXであり、それぞれ上が心停止下、下がoff pumpである。

Off pumpでもon pumpでもLADへのバイパスは高率であり、心停止で90.4%,off pumpに至っては97.7%の症例で、LADへのバイパスが行われていた。

また、RCA、CXへのバイパスは心停止下の手術で高率に行われていた。

スライド18

スライド18

上の3段がそれぞれの冠動脈にバイパスを置いた症例。

下の3段がそれぞれにバイパスを置かなかった症例で、どの程度off pumpから脱落したかを示す。

先程の結果から、LADへバイパスを置かなかった症例は僅かに142例であるが、そのうちの何と14.8%がoff pumpで手術を成し遂げることが出来なかったことがわかる。

スライド19

スライド19

次に年齢分布を男女別に示す。

全体の75.9%が男性であり、男女比はこのところ、ずっと3:1でる。

男性のピークが60歳代から70代に移行した。

女性のピークは以前から70歳代であり、年齢分布に変化はない。

手術成績は男女差が僅かとなった。

スライド20

スライド20

年齢別手術成績

初回待機手術の10歳毎の手術死亡率を示す。

もっとも背面の灰色が97年から2000年までの成績で,前面の赤が今回の成績である。

5年前と比較すると優秀であるが。

この3年間、症例数の多い、60歳以上の症例の成績は向上していない。

スライド21

スライド21

1996年来の手術死亡率の推移を示す。過去最も優れた成績を残した2002年の成績には及ばないものの、単独冠動脈バイパス術の死亡率は1.95%、初回待機手術の死亡率は1.04%と優れた成績を残した。

スライド22

スライド22

2004年に行われた初回待期手術以外の単独冠動脈バイパス術は1,823例で、手術死亡率は1.04%であった。

手術死亡率は7.02%と高率であった。

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スライド23

2004年に行われた初回待期手術以外の手術では、On pump、beatingの症例が目立つ。

Off pumpは途中でon pumpとなった症例を含めてちょうど50%であった。

スライド24

スライド24

Off-pump CABGの施設数

単独冠動脈バイパス術におけるグラフトの種類とその数を示す。両側の内胸動脈で50%を越える。

動脈グラフトが全体の75%を占める。

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スライド25

ここで典型的な3枝バイパスをどのように手術するかを尋ねてみた。

症例は,70歳の男性で心機能の良い3枝病変である。

その結果

Off pumpが154施設

心停止下が107施設

On pump beatingが6施設であった。

スライド26

スライド26

Off pumpで手術を行うと答えた施設では、両側内胸動脈とGEAを用いた手術が多く、次いでradial arteryであった。

組み合わせでは左右の内胸動脈をLADかCXかどちらに用いるかで2つに分かれる。次いでradial arteryを用いた手術が多い。

スライド27

スライド27

On pump, beatingで手術を行うと答えた施設では、左内胸動脈とSVGを用いた手術が多かった。

組み合わせではLADを左内胸動脈で行い、RCAとCXにSVGを用いた手術が多い。

スライド28

スライド28

On pump, beatingで手術を行うと答えた施設では、LADを左内胸動脈で行うこと以外は、共通点はあまりない。

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スライド29

これからは心筋梗塞合併症に対する手術成績を述べる。

まず急性期の手術である。

心室中隔穿孔に対する手術は182例に行われ手術死亡は24.7%であった。

スライド30

スライド30

うちバイパスを行ったものは71例で、行わなかったものは111例であった。

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スライド31

VSPを前壁と後下壁に分類しそれぞれを術式で評価した。

前壁梗塞に合併したVSPは128例で、手術死亡率は23.4%であった。

Komeda-Davidのinfarction exclusion法が82%で行われ、Daggetに代表されるpatch closureは18%であった。

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スライド32

後下壁梗塞に合併したVSPは54例で、手術死亡率は27.8%であった。

Patch closureが56%、Infarction exclusionが44%で行われた。

スライド33

スライド33

左室乳頭筋断裂に対する手術は61例に行われ、他の合併症手術と比較して最も数は少ない。

手術死亡率は16.4%であった。

スライド34

スライド34

うちバイパスを行ったものは47例で、行わなかったものは14例であった。

スライド35

スライド35

心破裂に対する手術は96例であった。

死亡率は31.3%と高率であった。

スライド36

スライド36

うちバイパスを行ったものは17例で、行わなかったものは79例であった。

スライド37

スライド37

次に慢性期の手術に移る。

慢性期には左室瘤と乳頭筋機能不全があるが両者を合併することもまれではない。

昨年行われた左室瘤と虚血性の僧帽弁逆流は図のような関係にあった。

スライド38

スライド38

左室瘤の手術は279例で手術死亡率はは4.3%であった。

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スライド39

左室瘤単独では202例の手術が行われ、手術死亡率は2.0%であった。

うちバイパスを行ったものは164例で、行わなかったものは41例であった。

スライド40

スライド40

虚血性僧帽弁逆流単独では184例の手術が行われ、手術死亡率は7.6%であった。

うちバイパスを行ったものは182例で、行わなかったものは2例のみであった。

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スライド41

左室瘤と僧帽弁逆流を合併した症例では77例の手術が行われ、手術死亡率は10.4%であった。

うちバイパスを行ったものは67例で、行わなかったものは10例であった。

スライド42

スライド42

以上で報告を終える。

今回は従来のものと比較して、アンケートの内容が多岐に渡り、かなり細かになっているにも関わらず、ご協力いただいた施設数が前回よりも12も多い274施設になった。

本日の報告が多くの施設、先生方のご協力によりなし得たものと重ねて御礼申し上げる。

昨年に引き続きインターネットによるアンケートの配布、回収を行ったが、多くの施設にご協力いただき感謝している。

今後もさらなるご協力をお願いしたい。