理事長挨拶

この度、過去20年に渡り理事長を務められた瀬在幸安先生の後任として理事長を拝命し、重責を仰せつかりました。
本学会は、1970年秋に発足した日本冠動脈外科研究会を前身として1996年に創立されました。過去20年にわたり歴史を刻んできた冠動脈外科に特化した学会は世界的にも珍しく、現在では会員数805名(2016年4月現在)と大きな発展を遂げております。
本学会の主要な三大事業は、定期学術集会開催と、準機関誌としてのAnnals of Thoracic and Cardiovascular Surgery(ATCS)の発刊、冠動脈外科の全国アンケート調査であります。
定期学術集会は、第1回が1996年7月に瀬在幸安先生によって開催され、以後毎年7月に開催されて昨年は第20回(京都府立医大・夜久先生主催)の節目を迎えました。
本学会が準機関誌としているAnnals of Thoracic and Cardiovascular Surgery(ATCS)は、インパクトファクター(IF)を取得している高品質の国際医学誌であります。本邦の外科系学会誌でIFを取得している刊行物は決して多くはなく、IFを取得している雑誌を持っているということは本学会の大きな強みでもあります。
冠動脈外科の全国アンケート調査は、本学会発足時より毎年継続して行われており、学術集会の際に最新の集計結果が公表され、本邦冠動脈外科の動向をup to dateで知る貴重な機会を提供しております。アンケート調査が開始された1996年には2%を超えていた初回待機単独CABGの死亡率は2014年には1.03%まで減少し、特に初回待機オフポンプCABGの死亡率は0.78%と、今日では欧米を凌ぐ好成績を達成しております。2004年以降60%以上を維持している高いオフポンプCABG施行率も、先進国の中では群を抜いています。こうした本邦における冠動脈外科の質的向上に、本学会は大きく貢献してきたのではないかと思います。
2015年に、AATS(米国胸部外科学会)主催の第1回International Coronary Congressがニューヨークで開催されました。その折に会長であり米国冠動脈外科の第一人者であるJohn Puskas先生が挨拶の場で、「日本では既に20年も前から冠動脈外科に特化した学術集会が行われている。我々は20年もの遅れでようやく本会の開催に至った。」と語っておられました。本学会の存在は、欧米の冠動脈外科医も注目しております。また、昨年からは韓国のKorean Society for Coronary Artery Surgeryとの交流も始まり、相互に学術集会の際に日韓合同セッションを開催していくこととなりました。本学会は、我々が思っている以上に海外からの評価も高く、今後も国際化を積極的に進めていきたいと考えております。このように日本のみならずアジアの、そして世界の冠動脈外科をリードする、国際的にも最も歴史ある冠動脈外科の学会として、本会は、これからもその役割を果たしていかねばなりません。
夜久均副理事長とともに学会の更なる発展のために尽力して参りますので、会員諸氏のご支援とご協力を何卒宜しくお願い申し上げます。
2016年春
日本冠動脈外科学会理事長
東京医科歯科大学大学院心臓血管外科教授
荒井裕国